人間には、大きな不利益でもない限り現状を維持したい、と思う傾向があるようです。こうした傾向のことを現状維持バイアスといったりします。
分かり易い例が新聞などの定期購読でしょう。今読んでいる新聞に多少不満があっても、多くの人は定期購読する新聞を変更したり解約したりしません。何年も何年も継続して取り続けます。
こういった例は、他にもいくつも見つけることができます。また、この現状維持バイアスは、ビジネスでの利用価値が高そうです。
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自動更新付きの定期契約のサービス
現状維持バイアスがの使用例として思い浮かびやすいのが、自動更新が付いた定期契約のサービスです。上に挙げた新聞の定期購読もそうですよね。最初は数ヶ月単位の契約でも、現状維持バイアスが働いて、最終的には何年も定期購読してくれる人が多いわけです。
朝日新聞の捏造報道でも購読者の限定的だった?
新聞の定期購読に関しては、かなりのネガティブな要素があっても、継続されることがありそうです。そう感じたのは、2014年の朝日新聞の捏造事件です。韓国の従軍慰安婦に関する報道と福島第一原発の吉田所長に関する報道で、捏造があることが発覚しました。
この2つはどちらも、かなりネガティブな印象を与える事件だったと言って良いでしょう。真実を伝えるはずの報道機関が嘘をついていたわけですから、存在意義にもかかわるような大問題ですよね。ですから、部数が大きく減ってもおかしくは無いわけです。
実際、その後の報道をみていると、朝日新聞の部数は減っているようです。しかし、びっくりするほどへったかといわれると、個人的には、それほどでもないように感じました。
具体的には、2014年下期(7~12月)の部数に関して、次のような報道がありました。
日本ABC協会がまとめた2014年下期(7~12月)の平均販売部数によると、産経新聞が161万5209部(前年同期比0.1%減)、日本経済新聞が275万534部(同0.9%減)、毎日新聞が329万8779部(同1.5%減)と「ほぼ横ばい」または「微減」に踏みとどまっている。だが、「2強」と言われた朝日・読売は様子が違う。
朝日が710万1074部(5.9%減)で、読売が926万3986部(6.1%減)と、明らかに減り幅が他の3社よりも大きい。1
確かに大きく減らしていますが、誤報の重大性を考えると落ち込みが小さく感じます。また、読売新聞の方が大きく減少しているのも不思議です。
朝日新聞の読者には、比較的論調が近い東京新聞系の新聞か毎日新聞に乗り換えるという選択肢もあったはずです。でも、そうした人は、思ったほど多くないというのが現実だったみたいですね。
現状維持バイアスというのは、相当強いバイアスだと考えて良いでしょう。
保険でも現状維持バイアスを利用したものがある
保険などでも新聞などの定期購読と似たような手法が使われることが多いです。以前は主流だった生命保険の商品に、定期付終身保険という保険があります。この商品も、現状維持バイアスで契約が続くタイプの商品と言えるでしょう。
定期付終身保険というのはどんな保険かというと、終身保険の特約として定期保険が付いている保険です。定期保険というのは、3年とか5年とか期間が決まっている保険のことですね。
そしてこの特約部分である定期保険は、契約者の側から変更を求めなければ、自動更新される仕組み名のです。例えば、3年で特約が切れる契約を結んでいても、契約者が特に申し出なければ、その後もさらに3年契約が継続するわけです。現状維持バイアスを意識して作られた保険だと言って良いでしょう。
定期付終身保険がちょっと厄介なのは、自動更新されるたびに大きく保険料が上がるという点です。なぜ値上がりするのかと言うと、死亡のリスクというのは年齢が上がるたびに大きくなるので、保険金を維持しようと思えば保険料が高くなるのです。
更新内容を確認しなかったばっかりに、月々の保険料負担が数千円単位で増えるような事もありうるわけですね。つまり、現状維持バイアスが消費者の不利に働くケースもあるわけです。
この他にも、自動延長オプション付きの定期契約は、数多く見つけることができそうです。意識されているかどうかは別として、現状維持バイアスというのは、頻繁に使われる手法という事です。
使うレストランを変えないのも現状維持バイアス?
ランチを外食にしているビジネスマンだと、行きつけのレストランというのは必ずあるはずです。繁華街に近い場所にオフィスがあり選択肢がいくつもあっても、高い確率でそのレストランを選んでしまうわけです。こういうのも、現状維持バイアスと言えるかもしれません。
現状維持バイアスがあるという事は、一旦常連になってもらえば、その後他の店に取られる可能性は小さいということですね。ですから、一見で入った客がどうやったら常連客になってくれるかというのは、考える価値がある問題でしょう。常連が増えれば、一見客ばかり相手にするよりは、業績を安定させやすいはずです。
こうやって考えてみると、現状維持バイアスというのは、かなりの使い道がありそうです。少なくとも、何か新しいアイディアを考えるときには、人間には現状維持したがる傾向があるということは理解しておくと良さそうですね。
補足:大阪都構想は現状維持バイアスに敗れたとも言える?
大阪市の橋下市長は、大阪の都構想を掲げて政治活動を行ってきました。その集大成とも言える住民投票が行われ、僅差で敗れてしまいました。このことを受け、橋下市長は、政治家を辞めることを表明しています。2
この住民投票に関しては、マスコミが様々な分析を行っています。具体的には、大阪出身の国会議員が反対したからとか、強引過ぎる手法が裏目に出たとか、現在の福祉政策で恩恵を受けている人が反対にまわったといった感じです。
様々な人の利害が絡む問題ですから、当然マスコミが報じるような要素もあるのでしょう。ただ、現状維持バイアスも少なからず影響していると考える方が自然でしょう。
現状維持バイアスの影響があると考える根拠は、70歳以上の高齢者の反対が多かったという報道があるからです。ある出口調査の結果によると、70歳以上の男女と50歳代の女性のみで5割以上の反対がいたようです。
50歳代の女性の場合は、49.6%が賛成だったようですから、反対派が多いとは言えほぼ半々という感じです。つまり、高齢者の強い反対により現状維持が決まったという事なのです。
これからの残された時間の短い人の方が、現状維持を望むのは自然なことですからね。やっぱり、現状維持バイアスが働いたと考えるのが自然なのではないでしょうか。
橋下市長の今回の敗因は、現状維持バイアスに屈しないほどの強いメッセージを発することが出来なかったからでしょう。かなりの僅差ですからね。ちょっとした要因でひっくり返った可能性はあります。
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