教科書のデジタル化って| 個人的には反対ですがデジタル化の流れは止まらないでしょう
朝日新聞に、教科書のデジタル化に関する話題が出ていました。文部科学省は2016年度中に結論を出す方針だとか。1
記事を読む限り、朝日新聞はデジタル化に賛成のようですね。でも、個人的には、かなり疑問があります。学習効率が落ちそうな気しかしないんですよね。
Contents
教科書をデジタル化するメリットは?
朝日新聞によると、デジタル化のメリットとして、次のようなポイントが挙げられています。
- 算数で立体を切って断面図を確認できる
- 天体の運行のモデルを動画で観察
- 音楽や英語で音声を聴ける
- 音声で楽器の音や音階を確認
- クラス全員の解答を電子黒板に同時に表示できる
- 自宅であらかじめ録画された説明を見て授業では議論を中心にする「反転授業」もやりやすくなる
- 自宅で解説の動画を視聴し、あらかじめ問題を解いて送信
うーん。
こうやって挙げてみても、そんなに大きなメリットだとは感じないんですけどね。他の方は、どんなふうに感じているのかなあ。
一つずつ考えてみましょう
上に挙げられたようなポイントについて、一つずつ考えてみましょう。
立体の断面図ってそんなに重要?
立体の断面図って、多分、頭で想像するのがトレーニングになるんですよね。すぐに答えが見えたら、考える力失われそうな気がします。いくつか実例を示したいのなら、紙のテキストにサンプルをいくつか載せれば十分でしょう。
天体の運行モデルは教室で説明できそうです
次に天体の運行モデルですが、確かにこれはデジタル化するメリットがありそうです。でも、お金をかけてするほどのことかという疑問も無いわけではありません。
例えば、授業中に模型を使って説明するのは可能ですよね。動画をスクリーンに映して説明しても良いですし。
デジタル化するメリットとしては、ちょっと小さいような気がするのです。
英語の音声が聞けるのは大きい
今回挙げられたポイントの中で、一番大きなメリットだと思えたのが、英語の音声についてです。これに関しては、確かに、誰の目から見てもメリットと言えそうです。
英語教師の下手な発音を聞かされるよりは、よほどためになりますからね。というか、下手な教師の発音は、有害ですらあります。
音楽も相性が良さそうです
音楽に関しても、デジタル化の相性は良さそうですね。
でも、音楽のテキストって、家だとほとんど開かないんですよね。相性が良いからといって、使われないものをデジタル化するメリットはあるのかというあたりが気にあるところです。
「クラス全員の解答を電子黒板に同時に表示」って。これ要る?
この機能は、ディスカッションをするときなどに使いたいのでしょうね。でも私には、クイズ番組の「答えを一斉にどうぞ」にしか思えないのです。
生徒の側に立つと、こうやって全て表示させるのって、ちょっとイヤですよね。例えば、考えがまとまっていない時に、自分の意見として出したくない場合もありますよね。ちょっと子供の抵抗がありそうな感じがします。
予習を前提とする授業は成立するのかなあ
最後の2つは、自宅で動画や説明を見てくるという前提で授業を行うという話ですよね。
子供がきっちりと予習をしてきて、授業でそれを前提に議論するというのは、手法としては分からなくはありません。でも、そんな真面目に予習する子って、どのくらいいるのでしょうか。
予習を前提に授業をやると、真面目にやる生徒のみが参加する授業になりそうですよね。そして私のような人間は、授業に参加できず、窓の外を眺めることになりそうです。
意図としては理解するのですが、機能するのかはなはだ疑問です。
デジタル化するデメリットもありそうです
教科書のデジタル化のメリットに疑問があるだけではありません。デジタル化することで、大きなデメリットもありそうです。
個人的に、一番大きなデメリットだと思うのが、写真に落書きができないことです。子供たちにとっては、授業中の暇つぶしを一つ奪うことになります。
それに実は、写真への落書きって、受験でも役に立つんですよね。足利尊氏の絵に落書きをした経験があれば、受験で写真が出たときに、解答できますから。
写真への落書きは半分冗談としても、教科書に書き込めないのは、やっぱり大きなマイナスでしょう。授業中に教科書の余白にちょっとメモを取るのって、意外と大事ですよね。ノートに書くと、どの部分のメモなのか分かり辛かったりしますが、教科書に書いておけば一目瞭然です。
自習中でも、ちょっとしたメモは、教科書に残したいものです。電子媒体でもメモ機能は付けられるのでしょうが、手書きの方が見やすいですし、絶対に効率的です。
教科書にアンダーラインを引くのが効率的な勉強方だとは思いませんが、こうした書き込みをするのはかなり効率的でしょう。一部の教科では、ノートなんてとらないで、教科書に書き込みをした方がいい場合すらありそうです。
IT関連の企業の売込みが始まりそうです
個人的には以上のような考えなので、教科書のデジタル化には消極的です。でも多分、最終的には、デジタル化される流れになるのでしょうね。
何故デジタル化されると思うかというと、お金になるからです。教科書がデジタル化される流れになれば、かなり大きなお金が動くことになります。企業の立場に立つと、そんなビジネスチャンスを、無駄にしたくは無いでしょうから。
一番大きいのは、ハードウェアでしょうか。子供1人が1台の機器を持つことになると、それだけで初年度は一千万台以上の機器が売れることになります。
多少価格を抑え目にして、1台につき1万円で売ったとしても、1,000億円以上という金額になるわけです。すごいビジネスチャンスですよね。
あとはどの程度のペースで買い替えがあるかですが、毎年数百万台程度は確実に売れるのです。絶対に新入生は買い換えるでしょうから。こんなおいしいビジネスなら、ぜひとも食い込みたいと思うのは、当然の考え方でしょう。
もちろん、ネットワーク系の企業やら、電子出版がらみの企業やらも、かなりのメリットがあるはずです。そうなると、これらの企業が政治に働きかけるということは、十分に考えられますよね。それが原動力になり、最終的にはデジタル化でまとまる気がするのです。
アップルコンピュータの例を思い出します
ちなみに、教育関係に食い込むと、企業としてはかなりメリットがあるようです。これに関しては、以前のアップルコンピュータの例が思い出されます。
iPod を開発する前のアップルコンピュータは、マッキントッシュだけの会社でした。Windows のとのシェア争いに破れたアップルが生き残れたのは、教育関係で強かったのも一つの要因だと言われています。
アメリカの学校ではMac が使われていたので、厳しい時期でもあるていどのシェアは取れていたのだとか。また、学校でMac を使った学生が、その後もMac を使い続けるということもあったようです。
こういう事例がある事を考えると、やっぱり、公的な教育にかかわるメリットは大きそうです。ですから、関連メーカーからの強い後押しは高い確率であるはずです。
繰り返しますが、個人的には反対なんですけどね。
- 小中高の教科書、デジタル化検討へ 16年度中に結論
朝日新聞デジタル 2015年4月21日 [↩]
スポンサードリンク
スポンサードリンク