EUなどが求める財政緊縮策の受け入れについて、ギリシャで国民投票が行われました。その結果、反対票が多数で財政緊縮策を受け入れないというギリシャ国民の意思が示されました。
事前の報道では、賛否が拮抗しているという論調のものが多かったようですが、蓋を開けてみると反対派がかなりの多数を占めていたようです。6割以上が反対だったということですね。1
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日本人には許せないことらしい
さてこの投票結果に関してYahoo!ニュースのコメント欄などを見ていると、かなり怒っている人が多いのがわかります。その他のSNSやら掲示板を見ても、ギリシャに批判的な人が多いようですね。
遠く離れたギリシャのことです。経済的な影響があるのは気になる点ですが、それ以外はそれ程目くじらを立てて怒るようなことでもないように思うのですけどね。借金を返せないのに緊縮策を受けれないギリシャ人の事が、日本人には感情的に許せないのでしょうか。
まあ私自身も日本人ですから、感覚的には分からなくもありません。
オーサーコメントに違和感
具体的にどんな批判があったのでしょうか。Yahoo!ニュースのコメント欄から拾ってみましょう。
個人的に紹介したいと思ったのが、オーサーコメントという特別扱いのコメントです。Yahoo!ニュースのコメント欄で、必ず一番上に来るヤツですね。ギリシャの選択が間違いであるという主張をしています。
横山 信弘 | 16時間前(2015/07/06 06:16)
経営コンサルタントギリシャの経済秩序が崩壊しないか心配です。
たとえば業績悪化している企業に金融機関がお金を貸す代わりに、その企業に対して事業再建するよう求めるのは当然です。しかし企業経営者が、事業再建に反対か賛成かを従業員にアンケートをとった場合、金融機関はどのような印象を受けるでしょうか。常識で考えればわかるはずです。「理不尽」と受け止められるに決まっています。ちなみに「論理的」の反意語が「理不尽」です。非論理的な思考の相手と交渉はできません。
チプラス首相に失うものはそう多くないかもしれませんが、ギリシャ国民が失うものは極めて大きなものになると思います。
コメントした人は経営コンサルタントをなさっている方らしいので、一見まっとうなことが書いてあるようにも思えます。でも、率直に言って、やっぱりちょっと違う気がするんですよね。
一つは、企業の経営方針と経済政策を同じ水準で語っているのが気になります。もう一つは、外交に対しての無理解がちょっと気になります。
ただ、Yahoo!ニュースのコメント欄には、この意見に近いものが多いようでした。ギリシャ人のやり方が理不尽に映るようですね。
道義的に理不尽でも見捨てられないのが外交
オーサーコメントに対して、経済的な部分意外で反論したいのが、外交に対する無理解です。「やっぱりこの人は、国政を企業経営と同列に考えているのだなあ」と思ってしまうような記述があったのです。
具体的には、次の部分です。
ちなみに「論理的」の反意語が「理不尽」です。非論理的な思考の相手と交渉はできません。
企業間の取引だったら、確かにこの方の言うとおりでしょう。理不尽な企業は無視してしまえば良いんですよね。この人が例に挙げているように、銀行からお金を借りるという話だったら、銀行が貸さないという決定をすれば、話はそれでおしまいです。
でも、外交の場合はそんなことは言っていられません。理不尽な主張をする相手とも交渉しないといけないのです。日本に住んでコンスタントにニュースを見聞きしていれば、日本が隣国の理不尽な要求に振り回されているのを見ていないはずがありませんよね。外交ってそういうもののはずです。
それに片方にとって理不尽なことが、もう片方にとっては理不尽でも何でも無い可能性だってあるのです。中東を見れば互いの国が自分の主張の正しさを主張して譲らない状況を、簡単に見て取ることが出来るでしょう。どちらにとっても、自分の正義なのです。
とにかく国家間の関係の場合、片方が理不尽な行動をとったからといって、すぐに交渉打ち切りとはなりません。特にギリシャ問題の場合、交渉を打ち切ってしまうと、経済的な影響を中心に周辺国にも大きな影響があるでしょう。そんな自体を周辺国が見逃せるはずはありません。
金融政策を使えるようにするのが良い
また、ギリシャ国民の選択には、合理的な部分もあります。
そもそも現首相は、緊縮財政政策をストップすることを主張して選挙に勝ってきました。その意味では今回の反対多数は、同じ文脈上にあったのです。
また、緊縮を強いる政策が合理的なのか疑問であるという意見もあります。それどころか、そもそもEUという枠内に留まっている限り、ギリシャの再浮上の目は無いという見方もあるのです。
ギリシャの最大の不幸は、ユーロに入っていることで金融政策の自由度が無いことです。各国がユーロという共通通貨を使っているので、金融政策を自分で決められないのです。
しかも、ドイツなどのような財政的に健全な国が政策を主導するので、ギリシャの政策とはあわないのです。
ですから現在の状況の延長線上には、ギリシャ復活の目は無いという考え方をする人もいるのです。かりに緊縮財政を受け入れたとしても、ギリシャ経済が小さくなるだけと言う可能性も小さくないでしょう。
ですから、ギリシャは再浮上のためには、ユーロから出たほうが良いという意見すらあります。2
日本人の常識や倫理観、企業のルールを政治にあてはめると危険
外国の事を見るときには、日本人の常識や倫理観で考えてしまうのは危険です。日本人にとってあたりまえなことでも、相手にとって当たり前とは限りません。特に外交では、日本人の常識だけで判断するのは避けるべきでしょう。
さらに言うと、経済政策を考える時には、企業のルールを持ち出していはいけません。国の場合は企業と大きく異なり、自分でお金をすることが出来ます。また、国の経済政策は企業の経営方針とは目的が全然違います。
このあたりを理解しないで議論してしまうと、今回のオーサーコメントのようなちょっと恥ずかしいことになってしまいます。自分の知っている知識で状況を判断しようと思うのが人間の常ですからね。このようなコメントを残すのも分からないでは無いですけど。
また、Yahoo!ニュースのコメントをみていると、似たようなものも多かったです。ということは、この方意外も同じようなロジックで考えているのが見て取れます。ちょっと根深い問題なのかもしれません。
- ギリシャ国民投票、緊縮策に大差で「反対」=首相が勝利宣言―ユーロ離脱に現実味
時事通信 2015年7月6日 [↩] - 参考:国民投票実施でも混乱は必至!ギリシャ経済危機「唯一の解決策」を教えよう
現代ビジネス 2015年7月6日 [↩]
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