大手出版社や作家が、発売から一定期間は新刊本の貸し出しをやめるように求めているのだそうです。図書館が新刊本を貸し出すだめに、本が売れなくなると言っているようですね。1
でも、出版社や作家が言っていることは本当なのでしょうか。率直に言って、かなり疑わしいように思えるのですが。
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データによる裏づけが無いのが弱い
図書館で新刊本を予約してまで借りるような人って、わざわざ自分では本を借りない人が多いでしょう。新刊本の貸し出しを止められたら、その本を読まないという選択をするだけだと思うのです。
ちなみに、図書館に新刊を置かないで欲しいという根拠として、具体的に次のような例を持ち出して説明をしたのだそうです。
佐藤社長は、ある人気作家の過去作品を例に、全国の図書館が発売から数カ月で貸し出した延べ冊数の数万部のうち、少しでも売れていれば増刷できていた計算になると説明。
でも、この説明ははっきり言ってずるいです。なぜかというと、数ある文芸作品の中には、こういう事例があっても全く不思議なことではないからです。
自分たちに都合が良い例だけを意図的に選んでいるとしか思えません。根拠のある説得をするのなら、すべての文芸作品を例に論証を試みるべきでしょう。少なくとも、自社の作品全体ということなら、十分に可能なはずです。
多少の仮定を入れてでも、図書館が新刊を貸さなければ重版する文芸書が○○%増えるという説得をしないとだめですよね。結構立派な立場の方が主張しているようですが、日本の出版社のレベルってこんなものなのでしょうか。
こんなの、ただの主観です。
図書館で新刊を貸すのは今に始まった話ではない
それに、図書館の貸し出しの一部が売り上げだったら云々というのは、今に始まった話では無いはずです。
そもそも図書館というものが出来て以来、多かれ少なかれ同様の問題はあったはずなんですよね。それを今になって、この問題を持ち出す理由が分かりません。
本当に図書館が新刊を貸さなければ売れるのか?
それに、図書館で新刊を貸し出しがなければもっと売れるというのも、本当なのか疑わしいですよね。
人気の書籍の場合、新刊本は数十人とか数百人単位の予約が入ります。1人2週間借りるとすると、10人待ちだと5ヶ月先にやっと借りられる計算です。
もちろん、人気の本は、図書館も何冊かは買っているでしょう。でも、数十人待ちだとかなり待たされるのは確実です。
そこまで待ってから読む人というのは、実はそれほど読みたいわけではないように思います。少なくとも、お金は出したくないという思いは強そうですよね。
そして、図書館が新館を貸さなくなるということは、図書館が新刊を仕入れなくなるということです。それって、売り上げ的には逆にマイナスになるような気がするのですが。
図書館の利用者が減るのはマーケティング的にマイナスなのでは?
もう一つ気になるのが、出版社や作家は図書館利用者が減ることについてどう考えているかです。
新刊本の貸し出しを1年延期するとなれば、これまで図書館でその手の本を借りていた人の足は遠のくでしょう。多かれ少なかれ、図書館の利用者数には影響が出るはずです。
それって、出版社や作家の立場からすると、自分たちの本を知ってもらう機会を減らしているだけなんですよね。図書館というのは、本好きの人に対して無料で本を紹介できる場所でもあるわけですから。
実際、最初はたまたま図書館で借りた本なのに、すごく気に入ってその作家の作品を購入するなんてこともあるはずです。そういう機会を減らすことは、出版業界としてはプラスなのでしょうか。
普通だったら、自社の商品のサンプルを無償で置いてくれるところは、非常にありがたいはずなんですよね。しかも、そのサンプルを買い取ってくれるわけですから。
短絡的過ぎる気がします
出版社と作家の提案について色々と考えてみましたが、やっぱりちょっと短絡的な主張に思えてなりません。自分たちの主張に都合の良い断片的な情報だけを集めているように思うのです。
しかも、彼らの提案が逆効果である可能性も小さくはなさそうなんですよね。本当にまじめに考えて提案したものなのか。かなり疑問です。
なんだか、ただの感情論なのではないかと思うのです。
- 本が売れぬのは図書館のせい? 新刊貸し出し「待った」
朝日新聞デジタル 2015年10月29日 [↩]
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