【プロスペクト理論】参照点(リファレンス・ポイント)は価値関数の原点です| 金融の専門家っぽい人でも間違っている事がある

プロスペクト理論では、参照点という考え方が非常に大事です。参照点というのは、一言で言ってしまうと、価値関数の原点の事です。

価値関数は、実際の損得の額ではありません。実際の金額ベースの損得と、その損得でどのぐらい損をしたあるいは得をしたと感じるかの対応の関数ですね。これをグラフに表すと、次のようになります。

Valuefun

例示

一つ具体的な例を示しましょう。グラフを見ながら、考えてみてください。

例えば、あなたは100万円で株を買ったとします。この株が値上がりして、150万円になったとします。この場合は参照点、すなわち価値関数のグラフの原点は100万円という事になります。そして、50万円得た状態は、グラフの右上のどこかということになりますね。

この株がさらに値上がりすると思い、継続して保有したとしましょう。その結果、120万円になってしまったとします。このときには、参照点が100万円のままで20万円上がっていると感じる人と、参照点が150万円になり30万円下がったと感じる人がいるでしょう。

参照点が100万円の人どう考えているかというと、100万円を損得を考える原点(=参照点)と取り、そこからまだ20万円上がっていると感じているのです。上のグラフでいうと、右上にはありますが、先ほどの50万円の時の時よりは左に寄ったところにあるはずです。

逆に、参照点が150万円に移った人は、150万円が損益を判断する原点(=参照点)となり、そこから30万円損したと考えるのです。つまり、参照点が150万円になることでリセットされ、左下の損をしている領域に入ることになります。

参照点を誤解している人もいるのかも

プロスペクト理論の参照点は非常に役に立つ考え方ですが、意外と正確に理解していない人がいるのかもしれません。例えば、ネットで見つけたプレジデントの記事に、次のような記述がありました。

行動経済学の代表的な理論に、ノーベル経済学賞を受賞した「プロスペクト理論」があります。このなかに「参照点」(損かどうかは絶対値ではなく、相対的な感覚で決まる)という考え方があります。

たとえば、スーパーで3000円分の買い物をしてレジへ並んでいるとき、レジ横の棚にのど飴を発見。「ちょっとのどがイガイガするから、買っておこうかな」とカゴにポイ。さらに「単三電池も」とカゴにポイ……。

さっきまで一円単位まで気にして野菜を選んでいたはずなのに、なぜレジ前では簡単に買ってしまうのでしょうか?  これはすでに買い物をした3000円が参照点となり、「100円くらいプラスしても大した違いはない」と感じてしまうから。この「参照点からの変化」を狙って店側は、レジ横に抵抗なくカゴに入れられる小さくて安い商品――飴、ガム、饅頭、電池などを並べているのです。1

ちなみにこの文章を書いたのは大江英樹という方で、「野村証券で個人資産運用、企業年金制度のコンサルティングなどを手掛ける」といった経歴を持っています。一応、金融のプロと言って良い人なのでしょう。

でも、参照点の定義からすると、この記述は間違っています。お分かりいただけるでしょうか。

プロスペクト理論の参照点は、上にも書きましたが、価値関数の原点です。この方が言うように「すでに買い物をした3000円が参照点」に移ったのなら、3,000円使った状態が参照点になるはずですよね。

という事は、ここからプラス100円の買い物をするのは、1円も使っていない状態で100円の買い物をするという意味でないとおかしいはずです。これだと、ついで買いの効果は期待できないでしょう。

今回挙げられたついで買いの例だと、電池を買う際に参照点は移っていないと考えるべきでしょう。3,000円使うのも3,100円使うのも大差ないという事で、簡単についで買いをしてしまう事があるのです。

もっとも、こうなると、「さっきまで一円単位まで気にして野菜を選んでいたはず」といったあたりがおかしくなりますけどね。まあ、間違った理解のもとに書かれているので、整合性が取れないのは仕方がありません。

このように、参照点に関しては、意外と誤解をしている人もいるようです。ただ、基本中の基本なので、しっかり理解しておきたいものですね。

心の財布で説明するのがベストでしょう

ちなみに、レジでのついで買いは、「心の財布」という考え方を使って説明されるのが一般的です。心の財布というのはどういうものかというと、お金を使う状況によってお金の価値は違って感じられるという人間の特性を表す考え方です。

例えば、Aさんが200万円の車を買った時に、1万円で「フロントガラスの撥水コート」のオプションをつけたとします。はっきり言って、特別必要な機能と思っているわけではなく、なんとなく良さそうだからという理由で気楽につけてしまいました。

でも同じAさんが、既に持っている車に対して、1万円をかけて「フロントガラスの撥水コート」の処理をするでしょうか。

もちろん、わざわざお金をかける可能性も無くはありません。でも、新車購入時に比べれば、選択しない確率が大きくなるでしょう。わざわざお金をかけて、こうした処理をしようとは思わないですよね。

つまり、同じ金額で同じ処理をする場合でも、状況によって選択が変わるのです。これが心の会計の一例です。

上のついで買いの例も同じで、3,000円の買い物をしたついでなら、普段買わない100円の商品を買ってしまう事もあるわけです。


  1. なぜ、レジ前に置いてあるガムや飴を買ってしまうのか
    プレジデント 2016/10/25 []

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