前のページで見た通り、キュレーションサイトというのは比較的低コストで構築できるようです。でも、今回問題になったDeNA のキュレーションサイトは、トータルで見て、赤字の可能性もありそうです。
赤字の可能性が考えられるのは、まず、公開されている決算の数字から見て厳しい可能性があるからです。そして、サイト運営のコストを分析してみても、ちょっと厳しいのではないかとも思えます。
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慶応大学の教授が記事を書いています
公開されている決算の数字から見て厳しいという見方は、太田康広という方が記事にしています。慶応大学の教授をしている方ですね。
該当部分をちょっと引用してみましょう。
DeNAのキュレーションプラットフォーム事業は、「新規事業・その他」のセグメントにある。2016年9月四半期では、「新規事業・その他」の一番最初に「キュレーションプラットフォーム事業」が書いてあるので、たぶん、一番、ウェイトが大きいのがWELQやiemoに代表されるキュレーションプラットフォーム事業だと考えていいのだろう。
赤字である。それも、売上を上まわる激しい赤字だった。先行投資も先行投資。売上を上まわる赤字というのは激しい。
2015年12月四半期に入ってようやく赤字幅が売上を下まわる。売上は、一貫して右肩上がりで推移し、2016年9月四半期で30億円に達している。と同時に損失が9億円程度までに納まった。今まで、10億円を超える四半期損失だったのが、多少、減りつつあるように見える。中長期では、黒字転換することを目指していたのだろう。1
キュレーション事業が赤字とまでは断言できないかな
この分析、ちょっと微妙ですね。
公開されている決算によると、キュレーション事業が「新規事業・その他」のセグメントの中で、どの程度の割合を占めていたのかは分かりません。ですから、本当にキュレーション事業が赤字だったか、正確なところは分かりませんけどね。
例えばキュレーション事業が、「新規事業・その他」セグメントの5割以上を占めているとしたら、別に新しいセグメントを作っている可能性も大きいでしょう。そう考えると、キュレーション事業が赤字と結論付けてしまうのは、ちょっと安易すぎる気がします。
決算の分析で分かるのは、キュレーション事業を含む「新規事業・その他」のセグメントが大赤字だというところまでです。DeNA の批判記事を書くために、ちょっと勇み足だったのではないかという気がしました。結論を急ぎすぎでしょう。
もちろん、キュレーション事業が赤字の可能性があるのは否定しません。実際に赤字である可能性も大きいと思いますけどね。
まあ、キュレーション事業がそこまでうまくいっていないというのは、ある程度言えそうではあります。
別の理由から赤字を疑っています
個人的には、別の理由から、DeNA の赤字を疑っています。DeNA の記事を書くコストを積み上げてみると、採算に乗せるのはそんなに簡単ではないと思えてならないのです。
withnews によると、DeNA のキュレーションサイトのMERY ではインターンの女子大生に記事を書かせていたそうです。それによると、記事1本につき90分というのが、彼女たちのノルマだったそうです。2
また、このインターンですが、時給1,000円程度で使っていたのだそうです。ということは、記事1本を書くのに1,500円程度はかかることになります。
これに校閲作業やら管理部門やらのコストが掛かるので、記事一本当たりのコストは2,000円台という事になるでしょう。3,000円を超える可能性もあるかもしれません。
しかしながら、DeAN のキュレーションサービスの記事の質でこのコストだと、1ページ当たりそんなに稼げるだろうかと思うのです。
というのも、DeNA のキュレーションサービスで主力だったのは、女性向けのファッションのMERY です。しかし、女性向けファッションサイトでこのコストだと、ちょっと採算に乗せるのは難しいと思えるからです。
というのも、ファッション情報というのは、それほど賞味期限が長くありません。ものにもよりますが、せいぜい3か月とか4か月程度しか価値は無いでしょう。という事は、記事を書いてから3か月の間に採算をあげないといけないのです。
でも、体感的には、コピペで作った記事でその水準の売り上げは意外と厳しいと思うんですよね。もちろん、1つの記事で何万円も稼ぐようなこともあるのでしょうけどね。平均でならすと、そんなに稼げないだろうという感覚でいます。
いくらSEO が強くても限界があるでしょう。
これが、息の長い情報で、ロングテールで稼ぐというようなモデルだと、また違うのでしょうけどね。例えば、DeNA のサイトでも、医療情報のWELQ のようなサイトなら、多少かコストをかけても時間をかけて回収することが出来る可能性があります。
その意味で、もしかしたら、WELQ というのはDeNA が力を入れていたサイトなのかもしれません。まあ、肩こりの原因がお化けなんて書いていると、全く信頼されないでしょうけど。
利益を出すのはこれかだったのかも
ところで、SEO 的に成功しある程度サイトに人を集められるようになれば、そこから儲かるコンテンツを追加していく事は可能です。お金をかけて作った質の高い記事なら、そこへのアクセスを意図的に増やせば、時間をかけて儲けることは可能だからです。
DeNA がSEO に強い企業という事であれば、自分たちが見せたいコンテンツへのアクセスが増やす事もできるでしょう。つまり、DeNA の戦略として、「①最初にアクセスが多いサイトを作り」「②アクセスが増えた段階で売り上げに結び付ける」という考え方を取っていても不思議ではありません。
つまり、最初に人が集まりやすいサイトを手っ取り早く作るために、学生を大量動員してグレーなページを量産していたとも考えられるのです。その意味では、今回問題になっているコピペを中心とした学生が短時間で書いた質の低い記事は、将来への捨石的な役割だったのかもしれません。
今後はまともなページが作られていったという事も考えられます。というか、そう考えないと、ちょっと合理的じゃないんですよね。質の低いページの乱造では、率直に言って大きく儲けるのが難しいでしょうから。
まあ、すべてが閉鎖されてしまった今となっては、調べる事もかなわないのですけど。想像の中のお話です。
企業イメージの既存を考えたらキュレーション事業は大失敗だろうな
DeNA のキュレーション事業が本当に赤字なのか、多少なりとも黒字なのかは、外からは正確な部分は分かりません。多分、現状は赤字であると予想しますけどね。
ただ、今回の件で、企業イメージの低下というかなり大きな問題を引き起こしてしまいました。これで完全に、やらなければ良かった事業という事になりそうですね。
「その他」のカテゴリーに入れられるくらい小さい規模の事業が、人の記事を盗む企業とか信頼できない情報を流す企業というイメージを世間に与えてしまったのです。しかも、かなり大々的にマスコミを使って叩かれました。もう、ちょっと救いようがありません。
そうなると、個人的にちょっと気になるのは、今後もキュレーション事業を続けるかという点です。
今後は世間の目が厳しくなるでしょうから、撤退するというのが常識的な判断ではないでしょうか。一度悪いイメージがつくと、立て直すのも至難の業でしょうしね。とくに、長期間閉鎖するようなことになると、SEOを使って上位表示させられるのかという大きな問題があります。
しかし、サンクコストを重視してしまうと、無理をして継続なんて話にもなりかねません。
サンクコストというのは、これまでかけた費用のうち、撤退しても返ってこないものの事です。つまり、これまで出した赤字を取り返したいとか、他社からサイトを買ったたコストを取り返したいなどと考えると、継続という事もあるということですね。
さて、DeNA はどのように判断しますやら。
もし再開するなら、最初にDeNA としてコメントを出すでしょう。その時どんなコメントを出すかも楽しみです。
- WELQは大赤字? DeNAのセグメント情報から
太田康広 | 慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
12/9(金) 6:00 [↩] - 「MERY」記事量産の現場 「90分に1本のノルマ」インターンが証言2016年12月09日
withnews 佐々木洋輔 [↩]
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タグ: DeNA, WELQ, キュレーション・サービス, 慶応大学